「民泊清掃費はいくらが相場か」「ホストに出す料金表をどう作るか」を相場や勘だけで決めていると、件数を増やすほど赤字が膨らみます。値付けの出発点は、1件あたりの原価を正しく分解し、赤字にならない下限価格を先に出すことです。この記事では、固定費まで含めた民泊清掃の原価構造を6つの要素に分け、1K/2LDK/3LDKの実例と料金表への落とし込みまで公開します。
この記事の数値は、HOST+(ホストプラス合同会社)社内資料「一般的な清掃費の内部コスト構成」をもとにした編集部の試算です。固定費をあえて1件あたりに按分し、強制的に変動費へ変換して、案件単位で黒字/赤字を判断できるようにしています。地域・物件・契約条件で実額は変わります。
実データの裏付け:清掃管理SaaS「Cleaning Master」上には、約3,800室・累計33万件超の清掃記録があります(編集部集計)。登録物件の平均ベッド数は3.24台/室で、リネンが原価に効くことが数字でも裏づけられます。本記事の物件タイプ別の考え方は、この実勢の物件構成と整合します。
先に結論:民泊清掃費は「相場」ではなく下限価格で決める
民泊清掃の料金表は、競合相場に合わせる前に次の式で下限価格を出します。
最低販売価格 = 清掃費 + 配送費 + リネン費 + ゴミ費 + マネジメント費 + その他固定費 + 目標利益
特に見落とされやすいのは、配送・管理者・採用・システムなどの固定費です。現場では「清掃スタッフに払う金額」と「リネン代」だけで粗利を見がちですが、実際には車両、倉庫、管理者、採用費、問い合わせ対応も1件ごとの原価に乗っています。
料金表を作るときは、基本料金を安く見せて追加条件を現場で吸収するのではなく、次の項目を最初から分けておきます。
| 料金表の項目 | 赤字を防ぐために見る条件 |
|---|---|
| 基本清掃料 | 面積・水回り数・標準作業時間 |
| リネン料金 | ベッド数・宿泊人数・タオル枚数 |
| ゴミ回収 | 袋数・分別・委託先の単価 |
| 距離加算 | 片道移動時間・駐車場・回収ルート |
| 時間指定/緊急対応 | チェックアウトから次チェックインまでの猶予 |
| 繁忙期加算 | 人員確保コスト・外注比率 |
この分解があると、ホストから「もう少し安くならないか」と言われたときも、何を削ると品質や対応範囲が下がるのかを説明できます。
原価は6つの要素でできている
民泊清掃1件のフルコストは、次の6要素に分解できます。
| 区分 | 性質 | 中身 |
|---|---|---|
| 清掃費 | 変動費 | 清掃スタッフの人件費(移動・交通費込み)。面積で変動 |
| 配送費 | 固定費を按分 | 配送スタッフ人件費・ガソリン・保険・車両償却・駐車場 |
| リネン費 | 変動費 | シーツ・カバー・タオル類。ベッド数・人数で変動 |
| ゴミ | 変動費 | 1袋あたりの回収費 × 袋数 |
| マネジメント | 固定費を按分 | 管理者人件費・事務所兼倉庫 |
| その他 | 固定費を按分 | 採用・広告・システム・税理士・決算・経営人材 |
ポイントは、「清掃費・リネン・ゴミ」は件数に連動する変動費、「配送・マネジメント・その他」は本来の固定費を1件あたりに按分したものという区別です。固定費を1件あたりに直しておくと、案件ごとに利益が出ているかを即座に判定できます。
① 清掃費(面積で決まる)
清掃スタッフの人件費を、移動・交通費込みで面積帯ごとに設定します。
| 面積 | 清掃費(1件) |
|---|---|
| 〜25㎡ | ¥2,500 |
| 〜40㎡ | ¥3,500 |
| 〜60㎡ | ¥4,500 |
| 〜80㎡ | ¥5,500 |
| 80㎡〜 | ¥6,500 |
② 配送費(1件あたり ¥1,884)
配送は典型的な固定費の塊ですが、1日10件・48分単位で回る前提で1件あたりに按分します。
| 項目 | 1件あたり | 前提 |
|---|---|---|
| 配送スタッフ | ¥1,364 | 48分単位で移動 |
| ガソリン代 | ¥30 | 1日10件 |
| 車保険料 | ¥22 | 1日10件 |
| 車代(4年償却) | ¥68 | 1日10件 |
| 駐車場代 | ¥400 | — |
| 合計 | ¥1,884 |
1日に回る件数が増えれば、この¥1,884は下がります。配送の積載効率・ルート設計が、そのまま原価に効くことがわかります。
③ リネン費(人数で決まる)
リネンは1000ロット前提の単価です(S/Dは簡略化のため同一価格)。
| 品目 | 単価/枚 |
|---|---|
| シーツ | ¥120 |
| 掛け布団カバー | ¥160 |
| 枕カバー | ¥40 |
| ハンドタオル | ¥40 |
| バスタオル | ¥60 |
これをベッド1台分のセットに組むと、目安は次の通りです。
- シングル(1名分):¥420(シーツ+掛カバー+枕+ハンド+バス 各1)
- ダブル(2名分):¥560(枕・タオル類を2名分)
ベッド数が多い一棟貸しほど、リネンが原価に占める比率が跳ね上がります。
④ ゴミ(1袋 ¥140)
民泊のゴミは家庭ゴミに出せない「事業系廃棄物」です。1袋あたり¥140として、排出袋数で計算します。袋数は部屋規模・滞在人数で増減します。
ゴミの委託先が見つからない場合は、民泊のゴミ処理会社をさがすも参考にしてください。
⑤ マネジメント(1件あたり ¥572)
| 項目 | 1件あたり | 前提 |
|---|---|---|
| 管理者 | ¥429 | 1人で最大100件 |
| 事務所兼倉庫 | ¥143 | 200件で按分 |
| 合計 | ¥572 |
管理者1人が見られる件数を増やすほど、1件あたりのマネジメント費は下がります。「1人あたり管理件数」は経営効率の核心指標です。
⑥ その他(1件あたり ¥609)
| 項目 | 1件あたり | 前提 |
|---|---|---|
| 採用活動費 | ¥200 | 月1人採用 |
| 広告宣伝費 | ¥100 | 月6万円 |
| システム利用料 | ¥133 | — |
| 税理士 | ¥49 | — |
| 決算 | ¥27 | — |
| 経営人材 | ¥100 | — |
| 合計 | ¥609 |
実例:1K / 2LDK / 3LDK のフルコスト
上の要素を積み上げると、物件タイプごとの原価・利益が見えてきます。
| 物件 | 清掃 | 配送 | リネン | ゴミ | マネジ | その他 | 合計原価 | 販売価格 | 利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1K(ダブル1台) | ¥2,500 | ¥1,884 | ¥560 | ¥420 | ¥572 | ¥609 | ¥6,545 | ¥7,000 | ¥455 | 約6% |
| 2LDK(ダブル4台) | ¥4,500 | ¥1,884 | ¥2,240 | ¥840 | ¥572 | ¥609 | ¥10,645 | ¥11,600 | ¥955 | 約8% |
| 3LDK(シングル10台) | ¥5,500 | ¥1,884 | ¥4,200 | ¥1,260 | ¥572 | ¥609 | ¥14,025 | ¥15,200 | ¥1,175 | 約8% |
フルコストで見ると、**販売価格をそのままにした利益率は6〜8%**にとどまります。「清掃費+リネン」だけの粗利感覚で値付けすると、配送・マネジメント・その他の固定費で利益が消えてしまうことがよくわかります。
赤字ラインを料金表に戻す
上の試算を料金表に戻すと、価格判断は次のように変わります。
| 物件 | 原価 | 10%利益に必要な販売価格 | 15%利益に必要な販売価格 | 判断 |
|---|---|---|---|---|
| 1K(ダブル1台) | ¥6,545 | 約¥7,300 | 約¥7,700 | ¥7,000では薄利。近距離・低ゴミ量でないと厳しい |
| 2LDK(ダブル4台) | ¥10,645 | 約¥11,900 | 約¥12,600 | ¥11,600は最低ライン。リネン増で赤字化しやすい |
| 3LDK(シングル10台) | ¥14,025 | 約¥15,600 | 約¥16,500 | 大型物件はリネン・ゴミ・時間指定を必ず別管理 |
計算式はシンプルです。
目標利益率から逆算した販売価格 = 合計原価 ÷ (1 - 目標利益率)
たとえば原価¥10,645の2LDKで15%の利益率を残したいなら、¥10,645 ÷ 0.85 = 約¥12,523です。端数・繁忙期・緊急対応を考えると、料金表上は**¥12,600〜¥13,000**を下限に置く方が安全です。
逆に、相場に合わせて¥11,000で受けるなら、配送距離を短くする、リネンを外注単価で見直す、ゴミ回収を別料金にするなど、どこかの原価を先に下げなければ赤字案件になります。価格だけを下げて現場努力で吸収すると、清掃時間の圧縮や再清掃の増加につながります。
ホスト向け料金表テンプレート
原価を計算したら、ホストへ見せる料金表には「基本料金」と「変動する追加条件」を分けて載せます。見た目の安さを優先して全部込みにすると、ベッド数・ゴミ量・距離・時間指定が増えた案件ほど赤字になります。
| 項目 | 料金表に書く内容 | 原価側で見る数字 |
|---|---|---|
| 基本清掃料 | 間取り・面積別の基本価格 | 標準作業時間、清掃スタッフ単価 |
| リネン追加 | ベッド数・宿泊人数ごとの追加 | シーツ、カバー、タオルの枚数 |
| ゴミ回収 | 袋数または容量ごとの追加 | 事業系ごみの委託単価、分別工数 |
| 距離加算 | 片道移動時間・駐車条件で加算 | 配送費、駐車場代、回収ルート |
| 時間指定 | チェックイン前の短時間枠で加算 | 人員待機、優先手配、再訪リスク |
| 繁忙期加算 | 年末年始・大型連休などの上乗せ | 外注比率、人員確保コスト |
| 備品補充 | 消耗品の購入代行・補充作業 | 仕入れ、在庫管理、写真報告工数 |
提案書では、基本清掃料の下に「別途加算になる条件」を先に書いておきます。たとえば「ゴミ3袋まで込み、4袋目から加算」「片道30分超は距離加算」「当日変更は緊急対応扱い」のように線引きを明示すると、現場判断で無償対応する余地が減ります。
| 料金表の見せ方 | 起きやすい結果 |
|---|---|
| すべて込みの一律価格 | 初回は通りやすいが、繁忙期・大型物件・遠方案件で赤字化しやすい |
| 基本料金+追加条件 | 見積もり時の説明は増えるが、赤字案件と品質低下を防ぎやすい |
料金表を作ったら、月次で「追加条件が発生したのに請求できなかった案件」を見直します。ここが多い会社は、値上げ以前に料金表の項目設計を直すだけで利益率が改善します。
この構造から導ける打ち手
数字を分解すると、利益を伸ばすレバーは明確です。
- 配送効率(1日あたり件数)を上げる … ¥1,884/件を圧縮。ルート設計と地理的集約が効く。
- 1人あたり管理件数を増やす … マネジメント¥572/件を圧縮。仕組み化・標準化が前提。
- リネンの調達単価を下げる … ロットをまとめる、リネン会社をさがすで相見積もり。
- 適正価格に値上げする … 価値の見せ方は清掃単価を上げる交渉術を参照。
見積もり時に必ず確認する7項目
初回見積もりでは、料金表の基本価格だけで即答しない方が安全です。最低限、次の7項目を確認してから原価に戻します。
- 面積と間取り … 清掃費と標準時間が変わる。
- ベッド数と定員 … リネン費が最もぶれやすい。
- ゴミ袋数の目安 … 事業系ごみの委託費が乗る。
- 所在地と駐車条件 … 配送・移動・駐車場代が変わる。
- チェックアウト/チェックイン時刻 … 時間指定や緊急対応の有無。
- 写真報告・備品補充の範囲 … 管理工数が増える。
- 繁忙期の優先枠 … 人員確保コストを価格に含めるか。
この聞き取りをホスト・管理会社との初回商談に組み込むと、「あとから追加作業が増えて利益が消える」事故を防げます。移動距離が長い案件は、配送ルート設計とセットで受注可否を判断してください。
自分の物件で試算する
面積・ベッド構成・ゴミ袋数・販売価格を入れるだけで、原価内訳と利益率、目標利益率からの適正価格を自動計算できます。
まとめ
民泊清掃の値付けは「相場」ではなく「固定費まで按分したフルコスト」から逆算するのが正解です。原価を6要素に分解し、目標利益率から最低販売価格を出し、料金表にはリネン・ゴミ・距離・時間指定を分けて載せる。ここまで決めてから競合相場と比べれば、安売りではなく根拠ある価格調整ができます。案件ごとの原価と工数を自動で集計できる仕組みがあれば、この分解は毎月の経営判断に変わります。





